じゃずぎたりすと物語 34 〈恐怖の「んほほ」おじさん〉
2008年 05月 05日
34 〈恐怖の「んほほ」おじさん〉
青い小型トラックは私を通り越したところで急停止しました。
そしてまたキキーッと勢いよくUターンして反対車線の私のすぐ横に車をつけました。
「よしあき君か?? そうじゃな!?んほほ。」
何だ何だ??
知らないおじさんが運転席の窓から私に声をかけました。
「弘子の義理の兄じゃよ。ほほ。」
「連絡があっての、迎えに来たんじゃ。んほほ。」
どうやら体調不良を心配した弘子おばちゃんが迎えをよこしたらしい。
「ほれ、自転車を荷台に積みなさい!」
昨日の夜はえらい目にあったのでほとんど睡眠が取れず、
体調も最悪だったので、これはまさに地獄に仏。
言われたとおりに愛車レッド号を荷台にくくり付けて、私は助手席に座りました。
「はじめまして!よろしくお願いします。」
そう挨拶すると、おじさんは「んじゃ行くか、んほほ。」と言って走り出しました。
車の中でいくらか寝れて休めると思った期待はすぐに消し飛ばされました。
「よしあき君は ほほほ、旅に出てどのくらいになるのか?んほほ。」
キーーーーーーーーーッッ!!
「あんたのお父さんはよく知っておるんじゃがな。んほほ。」
キーーーーーーーーーッッ!!
スピードメーターは直線で90キロを越えています。
ひぇ~~ 助けてくれ~~ 恐~~~い!!!!
この地域では「全てのカーブでローリングしてタイヤを鳴らさなければならない」
こんな法規でもあるのだろうか。
(降ろしてくれ~~~~~~)
途中、父の生まれた神岡の街を通ったはずだけど、
感慨に浸るそんな余裕など全く無いまま、車は飛騨古川から国府を経て
あっという間に高山の街に入って来ました。
おじさんの運転もおとなしくなりました。
おじさんはどうやら山道で燃えるタイプのようです。
荷台を覗くと、真ん中にくくりつけていた愛車レッド号は左端に大きく移動していました。
「ほほほ、着いたぞ。んほほ。」
弘子おばさんの家は高山市の街中から少し外れたところにありました。
トラックのエンジン音を聞いて家からおばちゃんが出てきました。
「貴昭!! まあまあよく来たね。」
長く一人旅しているので、久しぶりに見る「知っている人の顔」でした。
おじさんは荷台からレッド号を降ろしてくれています。
「寝ていないんじゃろ? 顔色が悪いよ。」
今の顔色の悪さはひょっとしたらおじさんの運転のせいかもしれません。
「義兄さんありがとう」
おじさんは寄らずにこのまま帰るみたいです。
「中へ入って休みなさい。布団も敷いてあるよ」
「あれっ?通宏と康宏は?」
2つ3つ年下の仲の良いいとこの姿が見えません。
「二人とも用事で出かけとるで、夕方には帰るでな。」
「自転車旅行のこともいろいろ聞きたいんやけど、今は休んだらええ。後でゆっくり聞くわ」
「そうそう義兄さんの運転恐かったやろ??」
「元レーサーやったんよ。」
うひゃ~~ どおりで。。。。
布団に入ると間もなく爆睡モードに突入。
いい匂いと、聞き覚えのあるいとこたちの声で目を覚ましました。
「おはようございます」
ドアを開けると食事の支度が整っていて、
「おっ、貴昭!目が覚めたか?」
弘子おばちゃんの旦那と、いとこたちが座っていました。
一眠りしたので時間の感覚が無くなっていて、
朝だと思い込んでいましたが夜の7時でした。
「やあ通宏! おっ康宏!」
いとこたちと久しぶりの再会で話が弾みます。
「おじさんの運転で来たん?!」
「僕ら怖いから絶対に乗らんもん。」
おばちゃんの作った美味しい料理をおなか一杯食べて、
夜遅くまで笑い声が絶えずに盛り上がりました。
翌朝、いとこの通宏の提案で高山の街を散策することにしました。
白川郷などにある取り壊しの決まった合掌造りの家を高山市内に移転して、
文化遺産の価値を持つ大きなテーマパークを作るという企画があって、
すでに何軒かが市内に移されているという。
それならわざわざ白川郷まで行かなくても合掌造りの家を見ることが出来ます。
早速通宏と自転車で行ってみました。
釘を1本も使用していないというこの建造物は、3、4階建てになっていて、
小さなビルほどもある大きさ。
残念ながら中に入ることが出来ませんでしたので、玄関口から覗き見ました。
「黒い」
そう、中央に置かれた囲炉裏から放たれる煤(スス)が建物の隅々まで充満して、
こびり付くことによって建築強度を増し加えているそうです。
先人の素晴らしい知恵です。
この薪を焚いたような匂いもたまりません。
気分が落ち着いて、ここに泊まりたいという衝動に駆られました。
しばし飛騨の山里の情緒に浸って丘を下る時、通宏が叫びました。
「貴昭、ほらっ 乗鞍!」
街の遠く向こうに、夏だというのに雪をかぶった北アルプスの乗鞍岳が見えます。
その名の通り、馬の鞍のようななだらかな形をしていますが、
標高は3.000mを超えています。
さらに左に目を向けると、やはり3.000mを越す穂高連峰がかすんで見えます。
さすがに「日本の屋根」と言われる北アルプスの景色です。
山に囲まれた美しい景色の高山という土地の魅力を再認識しました。
しかし同時に不安で一杯になりました。
この「日本の屋根」、北アルプスを越さなければ家に帰れないのです。
思いに浸っていると、突然通宏が
「貴昭はギター弾くんやろ?!」
ん? なんだ突然。
つづく
写真:合掌造り

青い小型トラックは私を通り越したところで急停止しました。
そしてまたキキーッと勢いよくUターンして反対車線の私のすぐ横に車をつけました。
「よしあき君か?? そうじゃな!?んほほ。」
何だ何だ??
知らないおじさんが運転席の窓から私に声をかけました。
「弘子の義理の兄じゃよ。ほほ。」
「連絡があっての、迎えに来たんじゃ。んほほ。」
どうやら体調不良を心配した弘子おばちゃんが迎えをよこしたらしい。
「ほれ、自転車を荷台に積みなさい!」
昨日の夜はえらい目にあったのでほとんど睡眠が取れず、
体調も最悪だったので、これはまさに地獄に仏。
言われたとおりに愛車レッド号を荷台にくくり付けて、私は助手席に座りました。
「はじめまして!よろしくお願いします。」
そう挨拶すると、おじさんは「んじゃ行くか、んほほ。」と言って走り出しました。
車の中でいくらか寝れて休めると思った期待はすぐに消し飛ばされました。
「よしあき君は ほほほ、旅に出てどのくらいになるのか?んほほ。」
キーーーーーーーーーッッ!!
「あんたのお父さんはよく知っておるんじゃがな。んほほ。」
キーーーーーーーーーッッ!!
スピードメーターは直線で90キロを越えています。
ひぇ~~ 助けてくれ~~ 恐~~~い!!!!
この地域では「全てのカーブでローリングしてタイヤを鳴らさなければならない」
こんな法規でもあるのだろうか。
(降ろしてくれ~~~~~~)
途中、父の生まれた神岡の街を通ったはずだけど、
感慨に浸るそんな余裕など全く無いまま、車は飛騨古川から国府を経て
あっという間に高山の街に入って来ました。
おじさんの運転もおとなしくなりました。
おじさんはどうやら山道で燃えるタイプのようです。
荷台を覗くと、真ん中にくくりつけていた愛車レッド号は左端に大きく移動していました。
「ほほほ、着いたぞ。んほほ。」
弘子おばさんの家は高山市の街中から少し外れたところにありました。
トラックのエンジン音を聞いて家からおばちゃんが出てきました。
「貴昭!! まあまあよく来たね。」
長く一人旅しているので、久しぶりに見る「知っている人の顔」でした。
おじさんは荷台からレッド号を降ろしてくれています。
「寝ていないんじゃろ? 顔色が悪いよ。」
今の顔色の悪さはひょっとしたらおじさんの運転のせいかもしれません。
「義兄さんありがとう」
おじさんは寄らずにこのまま帰るみたいです。
「中へ入って休みなさい。布団も敷いてあるよ」
「あれっ?通宏と康宏は?」
2つ3つ年下の仲の良いいとこの姿が見えません。
「二人とも用事で出かけとるで、夕方には帰るでな。」
「自転車旅行のこともいろいろ聞きたいんやけど、今は休んだらええ。後でゆっくり聞くわ」
「そうそう義兄さんの運転恐かったやろ??」
「元レーサーやったんよ。」
うひゃ~~ どおりで。。。。
布団に入ると間もなく爆睡モードに突入。
いい匂いと、聞き覚えのあるいとこたちの声で目を覚ましました。
「おはようございます」
ドアを開けると食事の支度が整っていて、
「おっ、貴昭!目が覚めたか?」
弘子おばちゃんの旦那と、いとこたちが座っていました。
一眠りしたので時間の感覚が無くなっていて、
朝だと思い込んでいましたが夜の7時でした。
「やあ通宏! おっ康宏!」
いとこたちと久しぶりの再会で話が弾みます。
「おじさんの運転で来たん?!」
「僕ら怖いから絶対に乗らんもん。」
おばちゃんの作った美味しい料理をおなか一杯食べて、
夜遅くまで笑い声が絶えずに盛り上がりました。
翌朝、いとこの通宏の提案で高山の街を散策することにしました。
白川郷などにある取り壊しの決まった合掌造りの家を高山市内に移転して、
文化遺産の価値を持つ大きなテーマパークを作るという企画があって、
すでに何軒かが市内に移されているという。
それならわざわざ白川郷まで行かなくても合掌造りの家を見ることが出来ます。
早速通宏と自転車で行ってみました。
釘を1本も使用していないというこの建造物は、3、4階建てになっていて、
小さなビルほどもある大きさ。
残念ながら中に入ることが出来ませんでしたので、玄関口から覗き見ました。
「黒い」
そう、中央に置かれた囲炉裏から放たれる煤(スス)が建物の隅々まで充満して、
こびり付くことによって建築強度を増し加えているそうです。
先人の素晴らしい知恵です。
この薪を焚いたような匂いもたまりません。
気分が落ち着いて、ここに泊まりたいという衝動に駆られました。
しばし飛騨の山里の情緒に浸って丘を下る時、通宏が叫びました。
「貴昭、ほらっ 乗鞍!」
街の遠く向こうに、夏だというのに雪をかぶった北アルプスの乗鞍岳が見えます。
その名の通り、馬の鞍のようななだらかな形をしていますが、
標高は3.000mを超えています。
さらに左に目を向けると、やはり3.000mを越す穂高連峰がかすんで見えます。
さすがに「日本の屋根」と言われる北アルプスの景色です。
山に囲まれた美しい景色の高山という土地の魅力を再認識しました。
しかし同時に不安で一杯になりました。
この「日本の屋根」、北アルプスを越さなければ家に帰れないのです。
思いに浸っていると、突然通宏が
「貴昭はギター弾くんやろ?!」
ん? なんだ突然。
つづく
写真:合掌造り

by ymweb
| 2008-05-05 15:42