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宮之上貴昭執筆による長期連載


by ymweb
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じゃずぎたりすと物語 32〈安堵と恐怖 それぞれの一夜〉

32〈安堵と恐怖 それぞれの一夜〉

「あの~~。。。 こんばんは」

寝袋に入ったままテントの入り口のチャックを開けると、
この家の奥さんが立っていました。
「もうお休みになられましたか??」
「私のところはこれから晩ご飯なんですけど、よろしかったら一緒にいかがですか?」

寝袋には入っていましたが、まだ寝入ってはいません。

「あ、はい。」

時計を見ると時間はまだ7時30分を指しています。

今日はよく走って疲れたので早めに寝ようと思っていました。
しかし「ご飯」というキーワードに思わず反応して
「ありがとうございます、いただきます!」と条件反射で答えました。

昼間の「肉丼」の悲しい思い出が後を引き、食堂に入る気が失せて、
考えてみれば夕食は商店に入って買ったコッペパン1つと牛乳1本だけでした。

広い家です。
玄関から食堂に案内されると、ご主人はすでに座っていてテレビを見ていて、
テーブルの上にはご馳走が並んでいました。

(わお~~~!!)

ご主人が「さあ食べてください」。

遠慮なくいただくことにしました。

一人息子が最近結婚して会社のある金沢に住むようになったため、
現在はこの広い家に夫婦二人で生活しているそうです。
これまでの自転車旅行体験談をいろいろと話すと、
初老の夫婦は話に興味津々聞き入っていました。

すっかりご馳走になり、心の栄養もいただいてお腹一杯になりました。

「部屋が空いているからそこで寝なさい」と勧めてくれましたが、
すでに庭にテントを張ってあるし、そこまで甘える気になれず、
「慣れていますから」と言って自分のねぐらに戻りました。

翌朝、気持ちよく目覚めてテントをたたんでいると奥さんがやって来て
「これお弁当」と言って私に手渡しました。
おにぎりのようです。
「朝食も一緒にと思ったんですけど、まだ寝てらしたようで。。。」
このご夫婦の優しい気遣いに感謝しました。

さて心身ともにリフレッシュしてまた出発。

さて、出発して間もなく愛車レッド号の前にのどかな光景が現れました。
牛が荷車を引いて道路を走っています。

「すみません、写真撮ってもいいですか??」

真っ黒に日焼けした農家のおじさんは何も言わなかったけど、
失礼して「パチッ!」

じゃずぎたりすと物語 32〈安堵と恐怖 それぞれの一夜〉_e0095891_15174384.jpg


国道8号線に出て加賀市を通過して、ひたすら金沢方面に向かいました。
道はそれほど広くはないけれど、平坦で交通量も比較的少なく走りやすい。

午後になって金沢市内に到着。
せっかくここまで来たのだからと、日本三大庭園の「兼六園」を見学すべく、
案内標識に従ってレッド号を走らせた。

それほど高くない入園料を払って中に入り、早速庭園を散策。

う~~ん  美しい、しかも 何と広いのだろう。
この木の枝はテレビで見たことがあるぞ。
冬に雪で折れないように紐でくくってあるんだな。。。

確かに日本三大庭園の一つだけあって規模も大きく手入れも行き届いていました。
しかしこれまでほぼ日本を半周して自然の美しい景色をずっと見てきた私にとっては、
それほど感動を覚えなかったことは事実です。

さくっと一回りして戻り、また愛車レッドにまたがって出発しました。

津幡から小矢部を通過してさらに国道を進んでいくと、陽もだいぶ傾き始めました。
そろそろ今夜のねぐらを確保する時間帯です。
今日中には距離的に無理ですが、明日は飛騨高山まで行こうと決めてあります。
というのは、父が飛騨出身の人なので高山周辺には親戚の家がたくさんあります。
昔から仲良くしている従兄弟も二人高山に住んでいますので、
そこに泊まって世話になろうと言う魂胆です。

そんな明日の楽しみを胸に、わくわくした気持ちで走っていると、
突然道路がでこぼこになり、ハンドルをとられてとても運転しづらくなりました。
気が付けば道路に路面電車の軌道が平行して走っています。
そうです、高岡の街に入って来たようです。

道から少し脇にそれてしばらく進むと、林に覆われた小さな公園がありました。
あたりには民家が無く、まだ夕方だというのに薄暗くて少し不気味な公園でしたが、
時間も時間でしたから、目立たない場所にテントを設営しました。
管理人がいそうな建物も見当たりませんでした。

設営が終わったテントの中に入って回りを整理して、
買ってきた惣菜とお弁当を広げて夕食の準備です。
牛乳はパワーをつけるために夕食の必需品です。
自分に「お疲れ様!!」と言って食事をいたきます。

外はすでにすっかり暗くなっていますが、この時です。

遠くで「おいお前ら!何いちゃいちゃしとんだ!バシッ!」
「ん??こりゃ!!バシッ!」

明らかにチンピラのような柄の悪いお兄さんが二人、
公園のここから一番端のベンチにいたカップルをからかっている風でした。

そっとテントを開けて様子を伺うと、
竹刀のようなもので脅しているのが遠くに見えます。
アベックはそそくさと逃げていったようです。

(こっちに気付くなよ。。。) ランプを消して息も殺してました。
こちらに気付く様子はなく、このままこの公園を去っていくのかな。。。
と安心した瞬間「おい!あんなところにテント張っているのがおるぞ!」

気が着いたようです。
足音が近づいてきます。

「われ!誰じゃ勝手こんなとこにテント張ってるの、出て来い!!」

うわっ。。。。

15歳の宮之上少年、絶対絶命のピンチです。。

                         つづく
by ymweb | 2008-03-18 15:18 | じゃずぎたりすと物語