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宮之上貴昭執筆による長期連載


by ymweb
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18 〈母の入院、そして・・・〉

母は私が中学生の時に胆嚢炎になり、その後定期的に近所の病院に通院していましたが、
治療の際の「輸血」が原因で肝炎になり、その後は家にいても寝たり起きたりの生活がずっと続いていました。
そんな母が台所に立っていたところ急に立ちくらみがして倒れて、頭をどこかにぶつけたらしい。
その光景を見て驚いた弟が、泣きながら隣に家のチャイムを押して、救急車で病院に運ばれたという。

「貴昭、覚悟しておけよ。。。」
兄の現実味を帯びたこの言葉が心に迫り、いても立ってもいられなくなり、
自転車に飛び乗って病院に急ぎました。

クレオソートの臭いが鼻を突く病院の402号室のドアをそっと開けると、
私より先に家を出た父と弟、隣のおばちゃんも来ていました。
このシーンは病気の人が亡くなるテレビや映画でしばしば目にしたことがありました。
とても嫌な予感がします。

母に近づくと、母は力のない弱い声で
「貴昭。。。」
「お母さんはもうだめかもしれないから、克己(弟)の面倒を頼むよ。。。」

隣の家のおばちゃんは目に大粒の涙を流しながら
「そんなことはないから!大丈夫だから!」と母を励ましていますが、
その光景もテレビや映画でしばしば目にしたことがあったので、
むしろ私に絶望感を抱かせました。

これは我が家の一大事で、夏休みに計画している〈自転車日本一周〉どころではありませんでした。

母の心配もさることながら、家事の分担も必要となりました。
私は学校があるので、父が仕事を休んで母のケアや家事を行ってくれますが、
当然私も手伝う必要がありました。

二学期の終業式を終えて学校から帰ると、父や弟は病院に行っていて、
家には誰もいません。
私の机の上には自転車旅行の計画を書き記したノートがそのままです。
すぐさま夕飯の支度や掃除、洗濯などの家事に追われました。

母のいない生活は何と不自由なのでしょう。
明日から夏休みだというのに、このまま母は死んで、このような生活が毎日続くのでしょうか。
不安と失望絶望感で一杯になったその時、電話が鳴りました。
父の声で病院からでした。

「貴昭!! お母さんが。。。。」

「うそ!!」 私はその言葉が信じられませんでした。

                                         つづく
by ymweb | 2007-08-10 16:14 | じゃずぎたりすと物語