宮之上貴昭執筆による長期連載


by ymweb
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じゃずぎたりすと物語 33〈若いお巡りさん〉

しかし何の権限があってここにテントを張っていることに文句言われる筋合いがあるのでしょう。
恐怖の中にも何だか釈然としない感情が沸いてきました。

公園の街灯がテントを少し照らしていたのですが、その光が一瞬さえぎられました。
彼らはこのテントのすぐ近くにいるようです。
寝袋の中からじっと息を殺して様子を伺いました。

横に停めてあるレッド号の荷物には地図や洗濯物などだけで、
金目のものも一切ありませんから、何か持ち去られる心配はなさそうですが、
カメラはシーツの下に隠しました。

彼らもこちらの様子を伺っているようです。

テントの外に出て行かない限りは、このテントの中の人物が力道山のような強い男かもしれず、
ひょっとして極悪なヤクザかな、と思うかもしれません。

しかしその私のかすかな期待は無駄であることが判明しました。
横にはいかにも自転車旅行中というレッド号を停めています。

ガ~~ン!!
力道山や極悪ヤクザは自転車旅行しません普通。



そばにいるであろう彼らの前に、勇気を持って私から出て行くことにしました。

「何ですか? 何か用ですか?」

街灯に照らされた彼らの風体は、いかにもチンピラを代表する格好をしています。
一人は派手な赤と青の柄のシャツを着ていて、もう一人の竹刀を持っている方は
肌着の上に直接スーツを着ちゃってます。
年は20代前半でしょうか。
二人とも笑っちゃうくらいチンピラの格好です。

「自転車旅行か?」

その「肌着スーツ」の兄ちゃんが私に聞いてきました。

「ヤクザならともかく、チンピラはとかく危険で扱いにくい」
そんなことを聞いたことがあったので返答はやわらかく注意深くありました。

「ええ、そうです。」

すると彼が竹刀でレッド号の前輪のタイヤをポンポンと叩きながら、
「誰の許可を得てここにテント張ってんだ!? ん?」

こっちこそ(何の権限であなたに言われなければならないんだ? ん?)
と聞き返してやりたかったけど、とてもそんなこと言える空気ではありません。
こういう輩は人をからかって楽しんでいるだけです。

「お金が無いからです。」
率直に答えました。

柄シャツが勝手にレッド号の荷物を空けて物色しています。
暗いのでよく見えなかったのでしょう、洗濯物のパンツを手で持って、
「なんだこれは!?」
「うわっ パンツだ! 汚ね~~!!」

(確かに汚いけど、勝手に触ったのはあんたでしょ? ははは~のは。)
もちろん口には出しませんが。

「あの。。。 何も大したものはありませんから。。。」

この言葉に「肌着スーツ」が反応しました。
「何!? 俺らは泥棒ってか?」

「柄シャツ」も汚れ物のパンツを触ったことで少しピリピリしていたのでしょうか、
同調して「何? 泥棒?!」
私に近づいたとたん胸倉を思いっきりつかんできました。
痛っ!

(これは確実に殴られる。。。。)


覚悟していると、急に胸倉を掴んでいる彼の手の力が抜けました。
どうしたことでしょうか。
「肌着スーツ」と二人、顔を見合わせるや、そそくさと暗闇の方に走り出しました。

私が後ろを振り返ると、柵の向こうの細い道路から白い自転車の明かり。
そう、彼らが目にしたのは巡回中のお巡りさんでした。


「そこはテント張ってはダメですよ」
若いお巡りさんが叫びながらこちらに近づいてきます。

事情を話しました。

「警察官としてはここに宿泊することを許可することは出来ないけど、
明日の朝明るくなったらすぐに出発しなさい。」
融通の利く警察官でした。

「彼らはもう来ないでしょうけど、念のために後でまた回って来ます。」
こう言い残して去っていきました。

テントの中に戻って寝袋に入りましたが、興奮していて当然寝付けません。
掴まれた胸倉が少し赤く腫れていました。



外が明るくなってきました。
いくらか寝れたのでしょうか、起き上がったら少し意識が朦朧としています。

お巡りさんの言い付け通り、日の出と共に出発することにしました。
テントをたたんでいると、レッド号の周りはチンピラがばらまいた洗濯物。
昨夜の恐怖が蘇ってきました。

野営することは常にこういった危険を覚悟しなければなりません。
それにしても危機一髪のところをお巡りさんに助けられました。

少しふらふらとしながらも気を取り直して出発!
頭の中の音楽に合わせてペダルを踏みますが、今回頭を流れている音楽は。。。

「♪も~しも~しベンチでささやくお~二人さん♪」
「♪野暮な説教するんじゃないが~ ここらは近頃物騒だ~~♪」

もちろん「若いお巡りさん」です。
本当に物騒でした。

ただし私には歌詞にある「早くお帰り」の気持ちは大きいのですが、
「今なら間に合う終列車」の代わりに自分の足でペダルを踏まなければなりません。

国道8号線を進んでいくと富山の市街地に入りました。
神通川に沿って南下し、国道41号線に出て飛騨高山に向かいます。

父は飛騨神岡の生まれのため、親戚が大勢飛騨地方にいます。
富山市内から高山に住む親戚に電話することにしました。
当時は現在と違って遠距離通話料金が異常に高いため、
こうして比較的近くまで来てから電話をかけることにしていました。

高山には仲良しの従兄弟たちが住んでいます。
電話に出たのは父の妹、つまり私の叔母さんでした。

「貴昭、今どこにおるん?」
「お兄さん(父)から聞いとるでな、貴昭が自転車で旅行しとること。」

今富山にいて高山に向かっていることと、
あまり寝ていないので体調が思わしくないことを報告しました。

「41号線を来るんじゃろ? くれぐれも気をつけてな。」

弘子叔母ちゃんは昔から優しくて大好きな人でした。

神通川を横に見ながら、国道は山に吸い込まれていくようにゆっくりと登っていきます。

「猪ノ谷」というところから越中西街道と東街道に分かれます。
高山までの距離はどちらもほぼ一緒のように思えますが、
父の生まれた神岡を通ってみたかったので、
ここは迷わず東街道、つまりそのまま国道41号を走ることに決めました。

睡眠不足と炎天下に加えて長い上り坂のために体の疲労と衰弱が激しく、
頭痛と吐き気ももよおしてきました。

見通しの悪いカーブを曲がろうと大きくペダルを踏んだその時です。
正面から青色のトラックが私に向かって猛スピードで突進してきました。

あっっっ!!!

ギギ~~~ッ!!!

                                  つづく



写真:国道41号線を高山方面に向かう。
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by ymweb | 2008-04-03 15:01 | じゃずぎたりすと物語