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宮之上貴昭執筆による長期連載


by ymweb
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じゃずぎたりすと物語28 〈ギターな一夜〉

大学生は少し鼻で笑ってる感じでした。
「ほいよ!」
ピックと一緒に手渡されたギターは、
割と弾きやすそうなフォークギターでした。
そして彼らはすかさず女の子のグループのそばに近づいて腰掛けました。

いいんだな!? 弾いて。。。。

流行のポップス? 演歌? そんなのお手のものです。
何たって入り口は古賀政男の演歌、そしてテレビから流れるヒットポップですから。
毎日10時間練習していましたから、
自転車旅行くらいで指が動かないはずはありません。

ギターを手にした私は、さっき彼が単音でたどたどしく弾いていた曲のメロディに
全てコードを充てて数曲をメドレーで弾きました。

この辺も悪い人格形成の現われです。

先ほどまで弾いていた大学生の彼は、最初のうち少しだけ女の子と話をしていましたが、
その後は私の手元に視線は釘付けです。

さらに〈若者たち〉〈バラが咲いた〉などはもちろん、
今流行のグループサウンズの〈亜麻色の髪の乙女〉まで弾けちゃいます。

「ねえねえ、あの曲弾ける?」
女の子たちは近づいた大学生の二人をほったらかして私の周りを囲みました。

興が進んでリクエストのほとんどに応え、〈お座敷小唄〉まで弾くと、
宿泊客のおじさんやおばさん、はたまたユースホステルのオーナーまで大受けです。

やっぱりギターは楽しいな~~~

しかし受けて盛り上がったのはここまででした。
「ジャズは聴いたことありますか?」とみんなに尋ねてみましたが
あまり反応は良くないようです。

「ウェス・モンゴメリーという人はこのように親指で弾くんです」
「それでね、ジョー・パスの演奏するジャンゴという曲はこれこれで・・・」

それまで無口だった少年がギターを手にした途端雄弁になり
周りの人は皆驚いていました。

ギターを手にした時は大学生に対するライバル意識があったものの、
弾いているうちにそんなことは忘れて、自分の世界に入って行きました。

周りのことはお構いなしに、ジャズのフレーズを弾き続けていると、

「明日早いから寝るわ。 ギター弾き終わったらここに置いといて。」
そう言い残して大学生たちが部屋に帰りました。

いつのまにか私の周りには誰もいなくなっていました。
でもまだまだ弾き足りません。

それでは遠慮なく弾かせてもらって、一人でずっと楽しんでいると、
パジャマ姿のオーナーが出てきて、
「音が少しうるさいんですが、もう遅いので、すいませんがそろそろ。。。」

時計の針は確かに午前2時を回っていました。

この晩は床に就いても頭の中でメロディやリズムが鳴り響き、
スィングしながら寝ました。



翌朝、寝坊ぎみに起きてあわてて食堂に行くと、
食事中の宿泊客から「おはよう!」と共に小さな拍手が起きました。

「あっ、どうも。」
少し照れ気味に挨拶して、おなか一杯朝食を詰め込んで出発の準備です。
ギターを借りたお礼を言おうとしたのですが、もう出発したのでしょうか、
大学生の姿はすでにありませんでした。

体調もすっかり良くなり、今日は目的地を高松に決めて、いざ出発!

国道196号線はずっと瀬戸内の半島を走っていて、対岸は広島県です。
距離的に言えば松山から半島を横切るコースが近いけど、
自転車の大敵は「坂」です。
それで四国も北側の外輪をなめるようにコースを選択しました。

愛車レッド号は国道11号に出て順調に進んで、新居浜から川之江、
そして高松市に入って来ました。

ここでも市街地を避けてテントを張る場所を確保します。
公園や神社、寺などの敷地はセキュリティや管理上の問題などもあり、
宿営を断られることが多いので、
大きな民家と交渉して、
敷地内にテントを張らせてもらう方法が賢明のようです。

この日もとてつもなく大きな家を見つけて、
その庭先にテントを張らせてもらい、
無事に宿泊することが出来ました。

いよいよ明日でこの四国ともお別れして本州に戻ってきます。

しかし明日また、とてつもなく過酷な状況に置かれることを
この時点で想像することは出来ませんでした。

                                つづくじゃずぎたりすと物語28 〈ギターな一夜〉_e0095891_3145217.jpg
by ymweb | 2008-02-02 03:15 | じゃずぎたりすと物語