宮之上貴昭執筆による長期連載


by ymweb
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26〈悪い人格形成〉

26話 〈悪い人格形成〉

さあ四国だ!

と思って走り出したはいいものの、
時計の針はすでに午後3時を回っていました。
船などの乗り物を利用すると、「ペダルを漕がなくても」目的地まで
自分を運んでくれるので休息が得られる半面、
時間の感覚が解からなくなってしまうようです。

今夜はフェリーが着いたこの港町八幡浜を
ほんの少し過ぎたところに宿泊と決め込み、
公園の脇にテントの張れそうな場所を探してねぐらとしました。
時間的には少し早いけれど、
「四国上陸記念」と勝手に自分にご褒美を与えて楽をすることにしました。

実は体力的にも疲れがピークに達していたのかもしれません。
股はサドルで始終擦られているためにそっと触るだけで痛くなっていますし、
足もパンパンに腫れています。

街で買い込んだお弁当をテントの中で食べていると、
いきなり睡魔が襲ってきました。
テントの外で誰かが、「こんなところにテント張っているぞ!」
などと声が聞こえたけれど、
そんなことは上の空また夢の中で、
おそらく8時頃には爆睡していました。

手作り寝袋の毛布に包まった足がボサノバのリズムを刻んで、
頭の中は昨日作曲した延岡の彼女の曲が流れています。
(この曲のタイトルは、みなみ食堂だったから。。。そうだ!『To South』がいい)
がばっと起き上がると、時計の針は午前7時でした。

実は今でも同じ現象がほぼ毎日起きます。
目覚める直前は必ず音楽が頭の中を駆け巡っています。
そう、だいたいは足で4ビートのリズムを刻んで、
頭の中でアドリブしているのです。
そして、いいフレーズやメロディが浮かぶと、
がばっと起き上がってそのままギターを手にして弾きます。
自発的に目覚めるわけですから、実に快適な目覚めなのです。

これはサラリーマンには考えられない特権ですね。
ミュージシャンは基本的に仕事が夜ですから、
目覚まし時計をかける必要がほとんどありません。

自転車旅行は朝早く起きなければいけないとはいえ、
11時間も熟睡したので元気一杯です。
テントをたたんで、いざ出発!

それにしても出発してから今まで、ほとんど好天に恵まれています。
今日も雲一つない、いわゆる「ピーカン」だ。

行く先には低い丘陵が見えてきました。
登り坂に向かい、それまで舗装されていた道路が非舗装になりました。
田舎道なのに乗用車に加えてトラックなどの交通量が多くて、
土ぼこりをたてて通り過ぎて行きます。
これは自転車に乗っている者にとっては最悪です。
鼻や喉が苦しくって息が出来なくなり、目も開けられません。
我慢しきれず帽子を深くかぶり、タオルを顔面に巻きつけて走りました。

また一台後ろからやって来た車は、
必死に漕いでいる私にゆっくり近づいて、
「頑張ってね~~」と黄色い声。
見れば兄ちゃんが若い女の子を二人同乗させています。

(ざけんぢゃね~!)

応援してくれているのだから、冷静に考えれば怒ることもないだろうに、
悪路に苦戦している時に、楽しそうにしている彼らの発言が
「冷やかし」にとれてしまいました。

その後続いて、私の人格形成を悪い方へ導く? 
もう一つの出来事があります。

後ろから1台のバイクが近づいてきました。
バイクでツーリングをしているようです。

「ねえ君!」

彼はバイクをゆっくり走らせて
私の自転車の横に着けて話しかけてきます。

「はい??」

エンジンの音で話がよく聞き取れないので、
仕方なく自転車を降りました。

「ねえ、どこから来たの? どこ回って来たの?」

まあ普通の質問なのでそれなりに答えたのですが、

「一人旅で旅行か。。。俺と同じだな。」
「んじゃ、まあお互いに頑張ろう!じゃあ。」

そう言って右手でVサインをして、
エンジン音とともに峠を駆け登って行きました。

(どこが同じぢゃ!! こちとら自力だ!!)

どうにも気に入りません。

もちろん彼には何の罪もありませんし、
話しかけて励ましてくれたのだからむしろ良い人かもしれません。

また車やバイクで旅行することも悪いことでも何でもないのですが、
自転車旅行を続けていくうちに、
自分の中に変な「自尊心」が芽生え出しました。

例えば自転車旅行だったら、道路の横に咲いている草花はもちろん、
その場の空気の匂いや、落ちている空き缶、
投げ捨てられたタバコの吸殻の一つ一つを見ながら進んで行きます。

それで心の中で
(車やバイクでは感じることが出来ないだろ!ハハハ、ザマミロ)
となり、
(所詮お前らは自力ぢゃないくせに、ハハハ、ザマミロ)
となる訳です。

まあ15歳の子供だから「大人気無い」のは解かるとしても、
この悪い人格は正直に言って現在でも残っちゃってます。

例えば私はギターで速いフレーズを弾くときも親指で弾きます。
ウェス・モンゴメリーの影響とか、ウォームな音色を求めて、などと言うけど、
実はかなり無理をして「つっぱっている」証拠かもしれません。

細かい作業の練習を幾度も繰り返して、ようやく自分のものにすると、
言わば、自転車旅行でしか感じられない「足下の景色」を自慢したのと同じで、
心の中で(こんなに細かい練習を実はしているんだぞ!)
という意識があったりします。

心はほかの何物にも勝って不実です。

往来する車の土ぼこりの洗礼を受け、「自尊心の高ぶり」という
悪い人格を身に付けてしまいました。
「夜昼峠」という怪しい名がついているこの峠でしたが、
夜と昼の二面性の無い人格を培いたいと思うこのごろです。

さて、峠を越えて道路がまた舗装に変わると、
大洲の街に入りました。
ここからは進路を北にとって予讃本線に沿って進み、
瀬戸内の長浜町を経由して松山に出るルートです。

交通量が少なくて実にのどかで快適なツーリングとなりました。

一日に何本列車が走っているのでしょう。
おなかが空いたので、無人駅近くの小さな商店に入ってパンを買いました。
こんなところで商売になるのでしょうか?
陽に焼けた小太りのおばちゃんが、
真っ赤な大きなトマトを店の棚に並べたので、
「それ1つください」と言って買いました。

美味しい!!
50円のトマトは少し高かったですが、最高のご馳走となりました。

しばしここで美しくのどかな瀬戸内の海を眺めながら休憩して、
またピーカンの空の下を元気良く走り出しました。

順調と思われた四国のツーリングですが、
私の体に異変が起きたのは松山市を過ぎてからでした。

                                        つづくe0095891_16423582.jpg
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by ymweb | 2007-12-14 16:44 | じゃずぎたりすと物語