宮之上貴昭執筆による長期連載


by ymweb
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23〈恋人に再会!?〉

23 〈恋人に再会!?〉

愛車レッド号はまるでスローモーション映像を見るように、
ぐにゃっと斜めに傾いて倒れました。

原因は自転車を立たせるスタンドのようです。
鉄製のスタンドのホルダーが荷物の重さに耐えかねて、
根元のスプリングのところから折れ曲がり、脱臼したようにプラプラしています。

あわてて近くの木にレッド号を寄りかからせて応急修理することにしました。

どうやら走行には支障なさそうだけど、何とかして直さないと、
この先ずっと何かに頼らないとレッド号は立ってられない体に。。。

スプリングを金具に引っ掛ける作業を必死で行っていると、
また別の指にマメが出来てしまいました。
痛っ!

それでも何とか直すことが出来て、この悪夢の公園をさっさと出発しました。
おそらく少し蛇行運転しながら国道3号線を南下し、
傷ついたレッド号は私を乗せて海の迫る水俣の街を通過しました。

あ~あ。。。
度重なるアクシデントのせいで時間は浪費するし指は痛いし。。。
何だか急に脱力感に襲われて、走る気力が無くなってきました。

まだ午後3時過ぎ。
野営場所を探すのには少し早いけれど、今夜はここらへんに泊まろう。
テントを張るのに小一時間かかることを考えると、脱力感はさらに増しました。

寝場所を探しつつ走っていると、進行方向右手に火の見やぐら、
そして集落らしきものが見えます。
道路の表示看板には「水俣市袋」と書いてありました。
近づくと、火の見やぐらの横には消防分団の荷物置場らしき小屋があります。

古い小さな木造の建物で、入り口には鍵がかかっていません。
中を覗いてみると、4畳半ほどの板の間になっていて、
ウチワが2本とかなり古い漫画本が2.3冊置いてあります。
ほこりっぽくて人が住んでいる気配などありません。

(ここに宿泊出来ないかな?)

隣の民家に早速聞いてみることにしました。

「すみませ~ん!」

おじさんがいるのだけど、奥の部屋から出てくる気配はありません。

「あの~~~ すみませ~ん!」
奥まで届くように大きな声で「あの~!!この小屋に今夜泊まっても大丈夫ですか??」

おじさんは不審に思ったのかこちらに近づきながら
「ん? 誰だ??」

私が少年だということに気付くと、
「小屋に泊まる? ああ、別にかまわんよ」
「あれ?自転車旅行か?」と日に焼けた顔で気さくな雰囲気で話しかけてきました。

事情を説明したところ、「中に入って冷たいものでも飲みなさい」と言って
麦茶を出してくれました。

聞くと、おじさんの家は農業を営んでいるけど、
順番で消防の係りを受け持っているとのことでした。

火照った体に冷たい麦茶は私にとって素晴らしいご馳走でした。

あっ!

しかし私はこの冷たくて美味しい麦茶より数段素晴らしいものを
この部屋で発見しました。

ギターです!

走っている時に頭の中は、ジャズの曲のリズムを感じていたものの、
考えてみれば旅行に出発してからギターに触れていません。
まるで恋人に再会したような気持ちでした。
女性と付き合ったことはありませんが。

「これはおじさんが弾くのですか?」
早速尋ねてみると。

「ははは、ワシは弾かんよ、息子が昔ね。」

「ちょっと触ってもいいですか?」

「おいよ、かまわんよ」

置いてあったのは得体の知れないフォークギターで、
弦が錆びていて弦高が高く弾きにくいものの、一応ギターでした。

早速私が少し得意気になってポローンと弾き出すと、何と。。。
おじさんは「小屋へ持っていってかまわん」と言って
また奥の部屋に行ってしまいました。
どうやらおじさんは音楽に興味が無いようです。

この日はおなかが空くのも忘れて消防団の小屋の中で、
夜が更けるまでギターを弾いていました。
とはいえ15歳の私、こうしてギターを触ると、
家族や自分の部屋がとても恋しくなりました。
この夜はギターを抱えたまま眠ってしまいました。


翌朝も快晴。
今日も暑くなりそうです。

目を開けてもテントの黄色い日差しではなく、
久しぶりの屋根の下で寝ることが出来たので、
実に気持ちよく目覚めることが出来ました。
そして気が付けば、ギターが「抱き枕」になっていました。

昨日のおじさんに挨拶して出発しようと思い、声をかけましたが留守です。
農家の朝は早いのでしょうか。
それにしても、鍵をかけないで出かけているところが田舎の良いところです。
お礼を書いた手紙とギターを玄関に置いて出発することにしました。

出発して程なく「鹿児島県」という道路標識が出てきました。
目指すは桜島です。
(当時、沖縄はまだ日本に返還されていませんでした)

1.2.3.4  イチ.ニイ.サン.シイ  ワン.ツー.スリー.フォー

夕べ久しぶりに弾いたギターのせいで音楽のテンションが高まり、
ペダルを踏む足からジャズのリズムを感じます。
倍のテンポや3連に感じたり、時には8ビートという具合に自由です。
登り坂ではゆったりしたリズム、そして下り坂では軽快なリズムです。
東シナ海の美しい景色の後押しもあって、順調にレッド号は進んでいます。

鹿児島市内に入りました。

西郷隆盛の銅像などを見学してフェリー乗り場に到着。
目の前に浮かぶ桜島に向かって出航しました。

錦江湾の美しいエメラルド色の海を臨みながら、溶岩のどまん中を走る気持ち良さ。
しばし景色を楽しみながら快適なツーリングを楽しみました。

桜島を後にして国道220号線をひたすら南下していると陽も傾きはじめて、
そろそろ今夜のねぐらを探す時間となりました。

鹿児島県鹿屋市というところまで来ました。
今回の旅の最南端は桜島だと思っていましたが、
地図を確認したところ、最南端はここ鹿屋市でした。

テントを張れる場所を教えてもらうため、交番に入って聞こうと思いました。

この後、素晴らしい人情と感動の味に出会うことになります。

                                        つづく


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by ymweb | 2007-10-15 16:19 | じゃずぎたりすと物語