宮之上貴昭執筆による長期連載


by ymweb
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16 〈大きな進歩〉

初めてのジャズギターを手にして、相変わらずレコードを聴いては片っ端からコピーする毎日。
フレーズやコードもレコードに合わせれば同じように弾けるようになったものの、
一体どこでこのフレーズを使うことが出来るのかよく解かりませんでした。
コピーしたその曲でなければ適用できないのです。
それで、大筋でコード進行の解かる〈ブルース〉のソロを中心に勉強することにしました。
この練習方法はどうやら大正解だったようです。
同じキーのブルースをコピーしていくうちに、
コードに基づく特定のスケールの法則を発見することが出来ました。

考えてみれば私は兄の影響で古賀正男から入りました。
演歌は曲の構成のそのほとんどが分散和音です。
「そうか、このコードの時にこの音が使えるのか!」
そんな私がコードに基づくフレーズを理解することは比較的簡単でした。
ギターの演奏に固執することなく、ブルースの入っているレコードを選んでは
自分の好みのフレーズだけをピックアップしてコピーして弾けるようにしました。

そんなある日、また一つ大きな発見をしました。
スタンダード呼ばれているたいていの曲はその終わりの部分で
ブルースで使ったのと同じようなフレーズが使われていることに気が付いたのです。
それは後に解かったことですが、ジャズのフレーズの基となる、
いわゆるⅡ・Ⅴ・Ⅰのコード進行だったのです。

このことを理解したということは、それまでひたすらコピーしてきたフレーズは
単なるジャズのムード向上や指の運動に終わった訳ではありません。
そうです、コピーしたフレーズのほとんどを有効に活用できるのです。

たちまち多くのフレーズをブルースに当てはめて弾くことが出来て、
しかも〈枯葉〉などのスタンダード曲にも適用出来るまでになりました。
これは大きな進歩です。

たいていの幼い子がそうであるのと同様に、1歳まではほとんど会話が出来ませんが、
2歳になったとたんに堰を切ったようにいろいろな単語を並べて話をし始めます。
それまで表現できなかった文法や単語を心の中で蓄積させ、
ある時期に表現の方法が見つかると突然話し始めるのです。

私の場合もそれと似ているような気がします。

ただ単にフレーズを当てはめて弾くという練習方法を行っているうちに、
同じコード進行内ではフレーズ同士を途中からスイッチして演奏することや、
休符を入れて、残りを16分音符にして弾くことが出来ることにも気付きました。
これは素晴らしい進歩です。

とはいえ、それまで蓄積してきたコピーしたフレーズの量が極めて多いので、
この練習には終わりが無く、考えれば考えるほど気が遠くなる作業でした。
実際のところ私の頭の中は四六時中ジャズのことで一杯でパンクしそうでした。



季節は梅雨になりました。
梅雨が明けると高校生活初めての夏休みがやって来ようとしています。
学業ではなく、ギター生活にかなり疲れていました。
はっきり言って弾き過ぎです。
それで、この夏休みの期間はギターから少し離れて充電期間を設けようと考えました。
部屋に引きこもってギターだけに焦点を合わせた生活から離れることは、
後になって自分のための良い音楽につながると思いました。

そうです、音楽とは無縁の状況に身を置くことを決意しました。
それは精神的にも肉体的にも鍛えられる方法です。
その方法とは誰もが「あまりにも無謀」と口を揃えるものでした。

自転車で日本一周を計画したのです。

                                       つづく
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by ymweb | 2007-07-12 21:19 | じゃずぎたりすと物語