宮之上貴昭執筆による長期連載


by ymweb
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13 〈ジャズとの出会い〉

「宮之上さん!!」

よく見ると、着ている学生服のボタンも上2つが取れています。

「と、豊田駅の構内で他の学生に殴られました。」


近頃は駅の周辺で、八王子の高校生の不良グループが、
学校帰りの学生を狙って金銭を巻き上げるという事件を耳にしていました。
実際に私も、学校帰りにそのようなグループが駅の周辺にたむろしているのを
目撃したことがありました。

しかし何で阿部君は直接家に帰らずに私のところに来たのでしょうか?
確かに彼の家よりは私の家のほうが駅からは近いのですが、
どうやら理由は別にあったようです。

中学校時代から極悪だった、いわゆる「番長グループ」と私が親しかったのです。
とりわけ彼らのグループの一人とは、小さいときからの幼なじみということだけでなく、一緒に遊んだりギターを教えたりして、親友と呼べる間柄でした。

しかしこの「番長グループ」は、盗みを働いたり、喧嘩で相手を失明させたり、
行いはまさに極悪で、その名は他の学生の間でも広く知られていました。

もちろん私はその番長グループに所属してはいませんが、
ギターだけに楽しみを置いて一匹狼的に行動していたからでしょうか、
実際に番長もエレキギターを弾いていたこともあって、
「極悪」以外の点で親しくしていました。


阿部君はまだ玄関先に立ったままだったので、先ずは部屋に案内して、
私はすかさず「番長グループ」に連絡しました。
阿部君は私の番長グループとのコネクションを期待したに違いありません。
奇妙な出会いでした。

学校になど行っていない番長は、この夕方の時間でも家にいて寝ていたらしく、
私が電話で事情を話すと、眠そうな声で「誰?阿部?」
さらに他の学校の不良グループが駅周辺でハバを効かせている旨を話しました。
すると番長は、さらにかったるそうな声で「阿部って、あの1級下の奴だろ?」
「あいつはよ、生意気だから少し殴られた方がいいんじゃねーの?」

思いも寄らない番長の発言に少し驚きました。
どうやら阿部君を私より知っているようです。
とはいえ、番長は「解かった」という言葉を残して電話を切りました。

「大丈夫か?阿部君。」
心と体の傷も思ったより軽症で、部屋に置いてある私のギターに彼の視線が行き、
話は不良グループからギター談義、音楽談義に移行するのに時間はかかりませんでした。
阿部君は寺内タケシやベンチャーズはもちろん、ありとあらゆる音楽のことに精通していました。
弾いたギターの腕前も素晴らしいものでしたが、彼は噂通りの類まれな音楽情報家で、
私の知らないギタリストの名前を挙げては熱く語ってくれました。 
私はもう興味津々で彼の話に聞き入りました。

かれこれ2時間ほど経った時。

ピンポーン!

家のチャイムが鳴り玄関を開けてみると、そこには番長と仲間の2、3人が立っていました。

「捜したんだけどよ、もう駅周辺にはいなかったぜ。」

その時、たまたま買い物袋をさげた階上に住むおばちゃんが帰って来て、
風体の怪しい彼らが占拠している階段を、煙たそうな目で見ながら
「ちょっと。。。」と言って階段を上っていきました。

番長は私の連絡を受けて仲間を連れて速やかに「不良グループ狩り」に出かけたようです。
彼ら自身、八王子の不良高校生グループが以前から気になっていたようです。

とはいえ私は速やかに対応してくれたことに「ありがとう」とお礼を言って、
まだ部屋にいる阿部君を玄関に連れてきました。
軽くお辞儀をする阿部君に向かって番長はガムをくちゃくちゃ噛みながら
「あ~~べ!」とつぶやいて薄ら笑いを浮かべて彼の肩をポンと叩き、
「じゃあまたな」と私に言って仲間と去って行きました。

阿部君も落ち着いたので、そろそろ家に帰ることになりました。
そして近々彼の家に遊びに行く約束を取り付けました。

そんなに日が経たないある日のこと、
私は夕食を済ませてから、徒歩5分の彼の家にギターを持って遊びに行くことにしました。

彼の家は私と同じく多摩平の公団でしたが、テラスハウスの造りになっていました。
狭い階段を上って2階にある彼の部屋に通されました。

何百枚あるのでしょうか、4畳半の部屋に所狭しに並んでいるレコード、
そして数本のギター。
部屋中に貼ってあるいろいろなミュージシャンのポスター。。。
彼の情報はここに源を発しているようです。

彼は学年が1つ下でしたが、番長が言っていたように、
口の聞き方は確かに生意気な部分もありました。
とはいえ、好みの音楽が共通していたこともあって音楽談義に花が咲き、
寺内タケシやベンチャーズの曲を一緒に演奏して盛り上がりました。

そんな中、かねてから疑問に思ったベンチャーズの〈キャラバン〉について
彼に質問してみることにしました。

「このアドリブの部分がよく解からないんだけど、どうなっているのかな?」

彼は簡潔に答えてくれました。

「ああ、これはジャズだからね」

ジャズ!?

名前は知っていても、初めて自分から口にする言葉でした。

その後、彼はレコード棚の奥から1枚のレコードを取り出して私に聴かせてくれました。私を熱くさせたベンチャーズの〈キャラバン〉のサビのソロは、ほんの4小節の部分でしたが、
そうしたフレーズが「これでもか」と続くもので、まさに胸がときめきました

これだ!!
私の演奏したいのはこの音楽、ジャズだ!!

かくして、私がジャズギタリストを目指す第一歩となった記念すべきレコードでした。
そのレコードとは。。。
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by ymweb | 2007-05-11 19:19 | じゃずぎたりすと物語