5 〈魔の練習:中学校時代Ⅱ〉
2007年 03月 29日
おそらくつまみやビールを出しているのだろう。
その時、「おい、何時だと思っているんだ!」
部屋の外から私に向かって低い声が聞こえた。
父は口数の少ない人でしたが、大柄で力が強く、
私が2つの腕を使っても腕相撲に勝てませんでした。
また大の釣り好きで、誰に自慢したいのか、玄関には大きくて立派な釣竿が
これ見よがしに飾ってありました。
しばしば私をバイクの後ろに乗せて、いろいろな場所に釣りに連れて行きました。
私はそんな父を尊敬していましたし、大好きでした。
しかし今は、疲れて帰る父よりギターに夢中ですから、
無視して練習を続けていました。
すると母が
「よしあき、いい加減にしなさい、お父さん怒っているわよ!」
「うるせーな!」
かまわず弾き続けていると、しばらくしてまた母が
「お父さんうるさくて寝れないって。」
それでも気にせずに練習を続けていると、部屋のドアがいきなり開きました。
バリーン!!
目の前に仁王立ちした父。
飛んできたのは鉄の灰皿でした。
灰皿はギターのすぐ横のふすまにぶち当たりました。
危ない!!
もう少しで私かギターに当るところでした。
「いい加減にしろ!それで食っていくわけじゃあるまいし!」
はっきり言って父は恐いです。
ここは素直に練習をやめて、明日の朝早くから練習することにしました。
三日に一度帰る「父の日」のための、良い練習方法を考え付きました。
何しろ団地住まいですから、練習は他の部屋まで音は筒抜け。
そこで部屋の押入れに入り、さらに弦の下のほうにタオルを巻いて練習します。
暗いので電球を設置しました。
ポコポコとギター本来の音色は得られませんが、これで防音対策は十分です。
こうして昼も夜も楽しく練習をする毎日が続きました。
そんなある日、兄が家にやって来ました。
父より5歳年上の母が、兄を連れ子で結婚したため、
私の父と兄は13歳しか違わず、私と兄も12歳違いです。
父は本来なら連れ子の兄の方にケアを十分して育てるべきでした。
しかし実の子供の私に対してのみ愛情を育みました。
この境遇が兄の性格を変化させる元凶だったのかもしれません。
ボクシングや空手など、喧嘩にすぐさま対応できる格闘系にはまり、
しばしば睡眠薬を常用して朦朧となり、ロレツが回らないこともありました。
ですから、いくらギターをくれたとはいえ、私はそんな兄を嫌っていました。
私の3歳年下の実の弟はというと、実は生まれながらにして身体障害者、
つまり「知恵遅れ」でした。
このような境遇のためか、兄弟はいるものの一人っ子のような、長男のような、
今日に至る私の独特な性格が築かれたのかもしれません。
そんな中、兄とちょっとした事で口論となりました。
さらなる大事件はこの直後に起きます。