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宮之上貴昭執筆による長期連載


by ymweb
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5 〈魔の練習:中学校時代Ⅱ〉

母が寝床から起き出して、帰った父を迎えているようだ。
おそらくつまみやビールを出しているのだろう。

その時、「おい、何時だと思っているんだ!」
部屋の外から私に向かって低い声が聞こえた。

父は口数の少ない人でしたが、大柄で力が強く、
私が2つの腕を使っても腕相撲に勝てませんでした。
また大の釣り好きで、誰に自慢したいのか、玄関には大きくて立派な釣竿が
これ見よがしに飾ってありました。
しばしば私をバイクの後ろに乗せて、いろいろな場所に釣りに連れて行きました。
私はそんな父を尊敬していましたし、大好きでした。
しかし今は、疲れて帰る父よりギターに夢中ですから、
無視して練習を続けていました。

すると母が
「よしあき、いい加減にしなさい、お父さん怒っているわよ!」
「うるせーな!」
かまわず弾き続けていると、しばらくしてまた母が
「お父さんうるさくて寝れないって。」

それでも気にせずに練習を続けていると、部屋のドアがいきなり開きました。
バリーン!!
目の前に仁王立ちした父。
飛んできたのは鉄の灰皿でした。

灰皿はギターのすぐ横のふすまにぶち当たりました。
危ない!!
もう少しで私かギターに当るところでした。

「いい加減にしろ!それで食っていくわけじゃあるまいし!」

はっきり言って父は恐いです。
ここは素直に練習をやめて、明日の朝早くから練習することにしました。

三日に一度帰る「父の日」のための、良い練習方法を考え付きました。
何しろ団地住まいですから、練習は他の部屋まで音は筒抜け。
そこで部屋の押入れに入り、さらに弦の下のほうにタオルを巻いて練習します。
暗いので電球を設置しました。
ポコポコとギター本来の音色は得られませんが、これで防音対策は十分です。
5 〈魔の練習:中学校時代Ⅱ〉_e0095891_2014719.jpg

こうして昼も夜も楽しく練習をする毎日が続きました。

そんなある日、兄が家にやって来ました。
父より5歳年上の母が、兄を連れ子で結婚したため、
私の父と兄は13歳しか違わず、私と兄も12歳違いです。

父は本来なら連れ子の兄の方にケアを十分して育てるべきでした。
しかし実の子供の私に対してのみ愛情を育みました。
この境遇が兄の性格を変化させる元凶だったのかもしれません。
ボクシングや空手など、喧嘩にすぐさま対応できる格闘系にはまり、
しばしば睡眠薬を常用して朦朧となり、ロレツが回らないこともありました。
ですから、いくらギターをくれたとはいえ、私はそんな兄を嫌っていました。

私の3歳年下の実の弟はというと、実は生まれながらにして身体障害者、
つまり「知恵遅れ」でした。
このような境遇のためか、兄弟はいるものの一人っ子のような、長男のような、
今日に至る私の独特な性格が築かれたのかもしれません。

そんな中、兄とちょっとした事で口論となりました。

さらなる大事件はこの直後に起きます。
by ymweb | 2007-03-29 18:26 | じゃずぎたりすと物語